がん
がんとは
人間の体は数十兆個の細胞から構成されています。これらの細胞は正常な状態では細胞数をほぼ一定に保つ為、分裂・増殖をコントロールする「制御機構」が働いています。ところが、まれに細胞の遺伝子変異によって正常なコントロールを受け付けなくなり、勝手に増殖し始める「細胞集団」が現れます。
この細胞集団”腫瘍”が正常組織との境界を超えて浸潤的(水が少しずつしみこんでいく感じ)の増殖していく場合、あるいは転移を起こす場合を(多くは両方)”悪性腫瘍”すなわち「がん」と呼びます。
がんのほとんどは治療せずに放置していると、全身に転移し患者さんを死に至らしめます。
がんが発生する仕組み
がんが発生する仕組みにはさまざまな説がありますが、現在定着しているのが「遺伝子に生じた何らかの変化が関与している」という説。遺伝子に変化をもたらす要因としては、生活環境に存在する化学物質などの外的因子や、食生活、喫煙などの生活習慣、ストレスなどの心理的な飲子が指摘されます。
発生機序(順番)については、次のような説が一般的です。
身体を構成している細胞は”分裂”と”増殖”および”アポトーシス”)発生や再生の過程で生じる細胞の自然死”を繰り返しています。
正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とする場合に限って引き起こされるようにコントロールされています。
つまり、細胞が老化や欠損などで死滅するとき、新しい細胞がそれに置き換わるわけです。
ところが、特定の遺伝子に変異が生じると、この一連のプロセスの秩序に乱れが生じるようになります。
すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなってしまうのです。
この不死の細胞が増殖した結果が「がん」というわけです。
ただし、実は人間の体では毎回数千個単位で遺伝子の変異が生じており、健康な人の場合は遺伝子の変異を「免疫力」などによって抑制しているのです。ですので、変異した遺伝子が体内にある程度存在するからといって、必ずしも人体レベルで”がん”になるわけではないということも覚えておいてください。
がんの中医学的概念
3000年前の甲骨文に既に「瘤」の文字がみられ、後漢の『説文解字』では「瘤は、腫れる固まりの病気」と説明しています。
隋代の『諸病源候論』には、「石瘤は、乳房にある小さい固まりで、皮膚は赤くなく微熱と軽い痛みがある。足陽明胃経が虚弱で風寒邪気が侵入し、血流が悪くなるのが石瘤の原因である」という乳がんについての記述があります。
末代の『婦人大全良方』には「はじめに乳房に石のような固まりができ、皮膚は赤くなく痛みもない。歳月をかけて大きくなり、岩崩れのように、また熟したザクロが割れるように表面が破れる。根が深いものは乳岩という。その原因は肝鬱乗脾・気血両虚である」とあります。
また『聖済総録』には「瘤は”滞る”という意味」、『衛済宝書』には「瘤の初期は特に症状はなく、筋肉痛と微熱はあるだけがだんだん皮膚が腫れ、色が青暗となる」という記述があります。
清代の『瘍科心得集』には「腎岩は陰茎の先に発疹・結節のような固まりができて、破れると膿がが流れ、悪臭がある(陰茎は腎に属するため陰茎がんも腎臓がんに属する)。
肝腎虚弱の体質で、悲・憂・思・怒などの七情により肝血を傷め、虚火内盛・火邪鬱結のため筋肉を灼傷するのが原因である」という記載があります。
このように、伝統中医学の認識では、がんは「局部が固くなり変形するもの」とされ、「石瘤」「瘤」「岩」「癌」などの病名で呼ばれています。
がんの病因病機
さまざまな原因により邪熱火毒・肝気鬱結・気滞血瘀・痰湿積聚・経絡瘀阻・気血虚損および臓腑の働きのバランスが崩れるなどの原因が長引くと、がんが発生やすくなります。
1.邪気侵入
従来、風・寒・暑・湿・燥・火の六淫邪気が身体に侵入して長く留まると、臓腑の気血陰陽の失調を引き起こし、熱毒・気滞・血瘀・痰濁が生じて固まりの症状が発生するとされています。
現代では、これに加えて大気汚染・水質汚染・土壌汚染・放射能などの毒邪気の侵入も、がん発生の新しい外因となっています。
2.情志失調
悲・憂・思・怒などの七情により気滞瘀血を引き起こし、津液の代謝が停滞し、痰湿・瘀血を生じてがんになります。
3.飲食不節
食生活の乱れや塩辛いもの、酒、漬物、揚げ物、焼き物などを多く摂ると脾胃を傷め、受納・腐熟・運化機能が低下して、水穀精微との生成が不足となります。そのため、身体の正気が虚弱になるとともに脾胃の昇降機能も悪くなり、津液の代謝も停滞して、痰湿を生じることからがんとなります。
(統計によると、がんになる原因の5%は食事にあると考えられています。例えば、熱いもの硬いものの食べ過ぎ、酒、カビが混入した食べ物、肉類、脂肪類の摂りすぎ、添加物を使用した食品の摂りすぎなどがあげられます)
4.老化
中高年者では、老化により臓腑の働きが低下し、正気が虚弱になって免疫力も低下することから、がんの発病が多くなります。
5.臓腑機能の失調
体質、他の病気の影響・養生不足などで臓腑の働きが失調し、陰陽バランスが崩れています。
気血の巡りも滞り、痰湿・気滞・血瘀・食積が生じて邪気がたまり、がんが発生します。
日本における漢方でがん治療の応用
がん治療においては、がんを治す主役は手術や化学療法、放射線治療といった西洋医学です。漢方薬はその支持療法として用いられています。がん治療に漢方薬を併用することで治療の副作用を軽減し、生活の質を改善できる可能性があります。
ここでは代表的な漢方薬を一部ご紹介いたします。
1.大建中油
がん手術後の腸管の癒着、腸管運動不全を緩和する効果が広く知られています。
一般には体力がなく冷え症でお腹を壊しやすい人に、身体をあたためて胃腸の調子を改善することによく使われています。
2.半夏瀉心湯
抗がん剤や放射線治療の際の口内炎や下痢に効果が認められています。
一般には、みぞおちのつかえ感があり、吐き気や食欲不振があるなど、胃腸炎や二日酔いに用いられます。
3.六君子湯
抗がん剤による吐き気や食欲不振に用いられます。
六君子湯は作用機序の解明が進んでいる漢方薬の1つであり、構成する生薬が食欲増進ホルモンの働きを高めることが認められています。機能性ディスペプシアや胃食道逆流症などに処方されています。
4.補中益気湯・十全大補湯・人参栄養湯
化学療法や放射線治療による体力低下、全身倦怠感に用いられます。
補中益気湯の免疫機能改善、十全大補湯の貧血改善などの研究報告があります。
5.牛車腎気丸
抗がん剤の副作用の1つである末梢神経障害によって生じた手足のしびれ、痛みに用いられます。
一部において効果が認められることがあります。
がん治療を続けられなくなったとき、がん治療を受けるよりもQOLの維持を優先することを選んだ時にも、体力の増進などに漢方は役立つことがあります。がん治療の支持療法として、まだ漢方薬を強く推奨するには裏付けが少ない状況ですが、選択肢の一つとして考えてよいと思います。
がんの弁証論治の代表例
【気虚証】
手術後の回復期や抗がん剤治療、放射線治療、臓腑機能の低下などで、気虚証を引き起こしやすい状態です。
■ 症状
疲れ、無気力、息切れ、声が低い、咳、食欲がない、痩せ、顔色蒼白、悪風やかぜを引きやすい。
■ 治法
益気温陽
■ 処方
十全大補湯
(人参、茯苓、白朮、甘草、当帰、熟地黄、白芍、川芎、黄耆、肉桂など)
【陰陽両虚証】
手術時の出血、抗がん剤治療、放射線治療、臓腑機能の低下などによって身体の陰陽が消耗し、虚証になります。
■ 症状
足腰や身体がだるい、冷え、四肢不温、心悸、睡眠が浅い、微熱、喀血、喉が渇く、盗汗、五心煩熱、むくみ、下痢、便秘。
■ 治法
滋陰補陽
■ 処方
生脈散+百合固金湯+右帰丸加減
(人参、麦門冬、五味子、百合、地黄、玄参、貝母、桔梗、甘草、当帰、芍薬、杜仲、桂皮、炮附子、莵糸子)
【熱毒証】
臓腑機能の低下や抗がん剤治療、放射線治療などによってバランスが崩れ熱がこもる場合に用いられます。
■ 症状
微熱、盗汗、ときに高熱、喀血、皮下出血、胸痛、不眠、のどが渇く、食欲不振、口臭、腹張、便秘、血便。
■ 治法
清熱涼血解毒
■ 処方
五味解毒飲+黄連解毒湯加減
(金銀花、野菊花、蒲公英、紫花地丁、天葵子、黄連、黄柏、黄参、山栃子、白花蛇舌草など)
がん治療・抗がん剤副作用でお悩みの患者様へ
推奨されるがん予防・QOL向上のための養生法
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免疫力を高める
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情緒を安定させ、七情は適度に保ち、常に愉快な気持ちでいるようにする
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適度な睡眠と運動を心がけ気功・太極拳・ヨガを積極的に取り入れましょう
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過度に日光に当たらないようにし、過労を避ける
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生活習慣を見直し、禁煙、節酒する
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胸や背のあん摩をよく行って、筋肉の疲れと緊張を取る
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慢性疾患があれば積極的に治療する
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定期健診、早期発見、早期治療
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漢方薬を飲みましょう!
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