乳腺炎
乳腺炎とは
産褥期にみられる乳腺の炎症を乳腺炎といいます。
産褥期とは、分娩が終わり、女性の身体が妊娠前の状態に戻っていく期間(6~8週間)のことを言います。
産褥期乳腺炎には、「うっ滞性乳腺炎」と「化膿性乳腺炎」の2つがあります。
うっ滞性乳腺炎は、乳汁が何らかの原因により、乳腺内にとどまってしまうことで起こる生理現象であって、真の炎症ではないといわれています。
うっ滞性乳腺炎は、授乳回数が少ない、効果的な吸啜(赤ちゃんが母乳を吸うこと)が行われていない、といったことにより、母乳が乳腺の出口に詰まってしまうことで起こるものと考えられています。
また、関連は分かっていませんが、高塩分・高脂肪の食事でうっ滞性乳腺炎になりやすいと言われています。
化膿性乳腺炎は、赤ちゃんが母乳を吸う際に、赤ちゃんの口を介して細菌が感染することによって発症します。
乳腺炎の症状
産褥24~48時間は生理的な乳房の腫脹と疼痛があります。これは乳汁の鬱積と言われています。
その後乳腺の出口の閉息などにより、乳汁の排泄が抑制されると、うっ滞性乳腺炎に進行します。
うっ滞性乳腺炎の症状
産褥3~4日ごろに、乳房の腫脹・疼痛・熱感・硬結・発赤などの症状が出現します。
化膿性乳腺炎の症状
さらにこのうっ滞が解除されずに、乳腺の出口から最近に感染すると化膿性乳腺炎に進行します。
化膿性乳腺炎では、上記のうっ滞性乳腺炎のような症状に加えて、38度以上の高熱、腋窩リンパ節の腫脹、血管の怒張などの症状が出現します。また、排出される母乳は黄色く粘調性が高いものとなります。
乳腺炎に対する中医学の認識
乳腺炎は中医学では「乳痛」と呼びます。病因は主に3つに分けられます。
1.乳汁鬱積
一番よくみられます。
初産後、乳管が十分に開いていない、赤ちゃんが母乳を飲む力が弱い、等の理由から、乳汁が溜りがちになります。
2.肝胃鬱熱
産後飲食不節、情志抑鬱によって肝胃鬱熱となり、乳絡(乳管)が詰まって通じなくなります。
3.感受外邪
産後、気血不足になり、風寒などの邪気を受けやすく、乳管は閉塞され、通じなくなります。
病因病機
1.肝鬱気滞
乳頭は足の厥陰肝経に属します。肝臓は疏泄を主り、乳汁の分泌を整えます。
もし情志内傷になり、肝気は疏泄の機能が上手くできず、厥陰の気も順調に流れなくなり、乳汁が詰まって塊になります。
このようなうっ滞の状態は長く続けば、熱と化して、この熱は盛になり、肉が腐り、膿になってしまいます。
2.胃熱壅滞
乳房は足の陽明胃経に属します。乳汁は気血に由来します。
産後、高カロリーの物を食べすぎると、陽明積熱・胃熱壅盛となり、気血凝滞・乳絡閉塞をもたらしてしまい、痛腫となります。
3.乳汁瘀滞
乳頭の破損、陥没により、哺乳に影響を与えます。
乳汁が排出しにくくなったり、あるいは乳汁の量が多すぎて赤ちゃんが飲み尽くす事ができず、余った乳汁が溜まって乳絡が通じなくなり、乳汁瘀滞の状態が長く続くと熱と化して痛腫となります。
東洋一心堂漢方薬局での弁証論治
【肝鬱胃熱証】
■ 症状
乳汁はスムーズに分泌されない、乳房の局部は腫れたり、痛い、しこりがある。随伴症状としては悪寒、発熱、頭痛。
■ 治法
疏肝清胃、通乳消腫
■ 処方
栝樓牛蒡湯加減
(牛蒡子、栝樓根、黄芩、陳皮、山枙子、金銀花、柴胡、連翹、皃角刺、甘草)
【熱毒熾盛証】
■ 症状
乳房局部発赤、灼熱感、ずきんずきんと痛む、高熱、口渇、便秘。
■ 治法
清熱解毒、托里透膿
■ 処方
透膿散加減
(黄耆、当帰、川芎、皃角刺、金銀花、黄芩、玄参、牛蒡子、桔梗、白芷など)
【正虚毒恋証】
■ 症状
脹れ、疼痛、熱などの症状はなかなか消えない、あるいは乳汁が傷口から排出され、乳漏となる。
■ 治法
益気活血、托里透膿
■ 処方
托里消毒散加減
(人参、黄耆、当帰、川芎、芍薬、白朮、茯苓、金銀花、白芷、甘草など)
乳腺炎の予防法
1.乳首を清潔に保つ
赤ちゃんの噛み傷などから細菌が感染して化膿性乳腺炎を起こさないように、授乳の前には手指を良く洗い、授乳後も乳首を拭いて清潔に保つことが大切です。
2.バランスの良い食事を
特定の食事内容が乳腺炎の原因になるということはありませんが、食べ過ぎて高カロリー、高脂肪の栄養過多になると、乳汁が過剰に作られてしまう可能性があります。食べすぎには注意し、栄養が偏らないようにバランスの良い食事を心がけましょう。
3.締め付けのきつい下着は避ける
母乳は血液からつくられているため、血流悪いと乳汁の流れも悪くなり、乳腺炎をおこしやすくなります。ワイヤー入りのブラジャーなどで乳首が圧迫されると、血流が悪くなって乳汁がうっ滞しやすくなるため、締め付けのきつい下着は避けるようにしましょう。
4.ぐっすり眠って体を休める
ストレス、過労、睡眠不足でも血流の循環が悪くなり、乳腺炎を起こす誘因となるため、周りの家族の援助も得ながら、ぐっすりと眠って十分な休息をとるようにしましょう。
5.気功太極拳、ヨガ、体操などを適度に行う
全身の血行を促進、体力を高め、免疫力をアップ、疲労、ストレス解消に積極的に取り入れましょう。楽しくイキイキとした育児生活を過ごしましょう。