女性不妊・不育症
不妊症の定義
不妊症とは、避妊しないで性生活を継続しているにもかかわらず、1年間(中国では2年間)妊娠が成立しない状態を指します。
不妊症の原因は男性、女性いずれか(あるいは両方)の原因を特定できることがある反面、はっきりした原因が特定できないケースもあります。
男性側の生殖機能は正常であるのに結婚後2年以上経過しても妊娠しない、または過去に妊娠歴がありそれ以降2年以上妊娠しないものは不妊症と診断できます。
診断時には月経歴、結婚後出産歴、帯下歴、性生活歴などを詳細に尋ね、同時に卵管通過障害検査、卵巣機能検査、男性の精液検査などを行って診断の補助とします。
不妊・不育症における中医学の認識
1.腎虚
先天的に腎気が不足しているために陽虚となり、子宮を暖められなくなると子宮が虚冷となって精を摂めて妊娠することができなくなります。また精血が不足すると衝任脈が虚すため、胞脈が滋養されなくなって不妊症となるのです。
また陰虚火旺となって血海に熱がこもることによって不眠症も起こってしまいます。
2.肝鬱
精神的抑鬱から肝気鬱結をきたすと、肝の疏泄機能が失調して気血の調和が乱れるため、衝脈と任脈が相互に滋養し合うことが出来なくなって不妊症となります。
3.痰湿
肥満体質であり、油っこいものや濃い味の食品を好んで食べていると、脾虚となって運化は行われなくなり、内に痰湿を生じます。
そのために気機が失調すると胞脈が阻滞され、精をためることが出来なくなって不妊症となるのです。
4.血瘀
月経期や産後の余血がまだ残っているうちから房事(性行為)を行ったり、寒邪を感受したりすると、寒凝血瘀となり胞脈を阻滞し、両精が結合できなくなって不妊症となります。
東洋一心堂漢方薬局の弁証論治
腎虚不孕 偏陽虚
■ 症状
結婚後長期間が経過するのに妊娠しない。
経行後期で経血量は少なく色淡、または稀発月経、無月経、顔色黒暗、腰がだるく下肢に脱力感がある。
性欲淡白、小便清長、大便不実。
■ 治法
温腎補気養血、調補衝任
■ 処方
十全大補湯加味
(人参、白朮、茯苓、甘草、当帰、川芎、芍薬、熟地黄、黄耆、桂皮、丹参、香附、菟糸子、杜仲、仙茅、仙霊脾など)
腎虚不孕 偏陰虚
■ 症状
結婚後長期間が経過するのに妊娠しない、経行先期で量が少なく、紅色で血塊はない。
または月経は正常だが、身体は消痩し、腰がだるく下肢に脱力感がある。
めまい、目がかすむ、心悸して眠れない、せわしない、口渇、五心煩熱、午後に微熱がでる。
■ 治法
滋陰養血、調衝益精
■ 処方
二至丸合四物湯加減
(女貞子、旱蓮草、当帰、白芍薬、熟地黄、山茱萸、丹皮、地骨皮、黄柏、亀板など)
肝鬱
■ 症状
長年妊娠できない、月経周期は不安定で、月経中に腹痛がある。月経は順調でなく、経血量は少なく、黯色で小血塊が混じる。月経前に乳房が張って痛む。精神状態は抑鬱しており、煩躁して怒りやすい。
■ 治法
疏肝解鬱、養血理脾
■ 処方
加味逍遥散加減
(当帰、白朮、白芍薬、茯苓、丹皮、香附、天花粉、柴胡、甘草、生姜、薄荷など)
痰湿
■ 症状
結婚して長期間経過しても妊娠しない。肥満体質であり、経行後期または無月経。帯下量が多く、質は粘調。顔色は晄白で、頭暈、心悸があり、胸悶して悪心する。
■ 治法
燥湿化痰、理気調経
■ 処方
啓宮丸加石葛蒲
(製半夏、蒼朮、香附子、神麹、茯苓、陳皮、川芎、遠志、続断、黄耆など)
血瘀
■ 症状
結婚して長期間経過しても妊娠しない。
経行後期で量が少なく、紫黒色で血塊が混じる、又は痛経。平常から下腹部が痛み拒按。舌質紫黯または舌辺に紫点がある。
■ 治法
活血化瘀、調経止痛
■ 処方
少腹逐瘀湯加減
(蒲黄、五霊脂、小茴香、乾姜、延胡索、没薬、当帰、川芎、肉桂、赤芍薬など)