生理不順
生理不順とは
成熟した女性の身体では、約一か月の周期で排卵や、子宮内膜の変化が起こります。
排卵後、妊娠に至らなかった場合は子宮内膜が剥離し血液などとともに排出される”月経”が起こります。
月経は25~38日周期で起こるのが通常です。
月経周期がこの範囲よりも短くなったり、長くなったりする状態が「月経不順」で、一般に「生理不順」とも呼ばれます。
月経不順には、周期が通常より短くなる”頻発月経”と、長くなる”希発月経”があります。
また、妊娠していないのに3ヶ月以上月経がない状態を”無月経(続発性無月経)”と呼びます。
月経不順の原因にはストレスや過度の体重減少の他、卵巣や子宮の病気、ホルモンを調節する脳部位の病気、薬物の影響などがあります。
生理不順に対する中医学の認識
生理不順は、中医学(中医婦人科学)の月経病に属します。
月経病とは、月経の周期、経期、経血量、経血色、経血の質などの異常および月経周期に随伴して出現する症状を特徴とする疾患をいいます。
生理不順は中医婦人科学の月経先期、月経後期、無月経に相当します。
以下月経先期、月経後期についてそれぞれ紹介します。
(無月経については、こちらに記載がありますのでぜひご参考ください。)
月経先期
■ 定義
月経周期が連続して2回以上、しかも7日以上繰り上がるものを「月経先期」といい、周期が3~5日早くなっても他に明らかな症状のないものは正常とします。また偶然月経先期になっただけで、次回の来潮は正常であるものは病態とはしません。
現代医学では一般に「経行先期」「頻発月経」の名称が使用されます。
■ 病因病機
本病の病因病機は気虚と血熱が主となります。
気には摂血機能があり、気が虚すと血を統摂できなくなって衝任の固摂作用が失調します。
血が熱すると流れは散溢してしまい、血海不寧となります。いずれの場合も月経が早く起こることになります。
1. 気虚
飲食の不摂生、過労、思慮が過ぎると脾気を損傷します。そのため中気が虚弱になると統摂できなくなって月経が早く来潮します。
脾は心の子であり、脾気が虚すとその母である心気に救いを求めるため、長引くと心気も損傷されて心脾気虚となります。
また病が蔓延して脾の損傷が腎に波及すると、腎気が徐々に衰えて脾腎気虚(陽虚)となるため、臨床では特に注意する必要があります。
2. 血熱:実証と虚証に分けられます。
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陽盛血熱 陽盛体質のもの、または辛燥助陽の食品を偏食すると、熱が衝任に潜伏して迫血下行するために月経が早く始まります。
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肝鬱血熱 鬱怒により肝が損傷されると、下って血海を擾乱し、迫血下行となり月経が早く始まります。
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虚熱 陰虚体質、慢性疾患による陰の損傷、出血による傷陰などが原因で、水虚火旺となって熱が承認を擾乱すると、血海不寧となって経血が下行するために月経が早まります。
月経先期に関する東洋一心堂漢方薬局での弁証論治
経行先期の弁証では、周期の短縮、および月経量、色、質などの状況と、色、形、脈とを総合的に判断し、虚であるか、熱であるかを判断します。
治療では、疾患の性質に基づいて補・瀉および養・清を行います。
虚で火を挟むものには補虚を重点として養営安血を主とします。経行先期であるが、脈証からは火の存在が認められない場合には、病位の所在を明らかにしたうえで、補中気、固命門、心脾同治、脾腎双補などの治療原則を決め、方剤を決定します。
寒涼薬を使用して虚をさらに虚すことがないよう注意します。
【気虚】
■ 症状
月経周期がはやくなる。月経量が増え、色は淡、質は希薄。
疲労感や四肢の倦怠感または下腹部の空虚感があり、食が少なく便溏。
■ 治法
補気摂血、養血調経
■ 処方
補中益気湯加減
(人参、黄耆、炙甘草、当帰、升麻、柴胡、白朮、竜眼肉、酸棗仁など)
【陽盛血熱】
■ 症状
月経周期が早くなる。月経量が多く、深紅色または紫色、質は粘調。心胸部が煩躁し、顔が赤く口が渇く。
小便短黄、大便燥結。
■ 治法
清熱凉血、養陰調経
■ 処方
清経散加減
(牡丹皮、地骨皮、芍薬、熟地黄、青蒿、茯苓、黄柏、山枙子、玄参など)
【肝鬱血熱】
■ 症状
月経周期が早くなる。月経量が一定でなく、経血は紫紅色で血塊が混じる。下腹部に張痛がある。
胸悶して脇部が張り、乳房が張痛する。また心煩して怒りっぽい、口が苦く咽喉が渇く。
■ 治法
清肝解鬱、凉血調経
■ 処方
加味逍遥散川芎地黄
(牡丹皮、炒枙子、当帰、芍薬、柴胡、白朮、茯苓、炙甘草、生姜、薄荷、地黄、川芎など)
【虚熱】
月経周期が早くなり、経量は少または多、紅色で質粘調。両頬の紅潮を伴う。手足心熱。
■ 症状■ 治法
養陰清熱、涼血調経
■ 処方
両地湯加減
(地黄、地骨皮、玄参、麦門冬、阿膠、芍薬、兆沙参、牡丹皮など)
月経後期
■ 定義
月経周期が1週間以上遅れ、ひどくなると40~50日に1回程度まで遅延するものを「月経後期」と言います。
3~5回の遅延でその他の症状がないものは月経後期と呼びません。
また偶然一度経期が遅延しただけで次回からは通常に来潮するもの、初潮後数か月以内のもの、更年期で月経が遅延する場合なども、随伴症状がなければ病態としません。
現代医学では「経行後期」と称し、希発月経に該当します。
■ 病因病機
本病の発病機序には虚と実があります。
虚証は営血虚損または陽気虚衰のために血の源が不足して、血海が周期的に満ち溢れなくなったものであります。
実証は気鬱血滞により衝任が阻滞され、または寒凝血瘀により衝任不暢となり、その結果経期が遅延したものであります。
経行後期に月経過少を伴うものは、虚実に関係なく無月経へと進行しやすくなります。
1. 血寒
月経期または産後に寒邪を感受したり、寒涼の食品を過食したりすると、寒と血が結びついて血が寒凝します。
血の運行が渋滞して衝任が通じなくなると、血海は周期的に満ち溢れることが出来なくなって経期が遅延します。
2. 虚寒
陽虚体質のもの、または病が慢性化して陽を損傷すると、陽虚陰盛となります。
そのため臓腑が温養されなくなると血の生化運行に影響を生じ、血海は周期的に満ち溢れることができなくなって経行後期となります。
3. 血虚
慢性疾患のために身体が虚して営血が不足したり、出産や哺乳の過多、長期の慢性出血のために度々血を損傷したり、飲食労倦や思慮により脾を損傷したり、などの原因によって生化の源が不足すると、衝任が血虚となり月経は後期となります。
4. 気滞
もとより憂鬱や抑うつが多い性格であり、気が宣達しないでいると、血は気によって滞ります。
血がスムーズに運行されなくなって衝任が阻滞すると、血海は周期的に満ち溢れることができなくなり、経期が遅延します。
月経後期に関する東洋一心堂漢方薬局での弁証論治
本病の弁証では、経血の色、量、質及び全身症状から虚・実を把握します。
治療ではよく「温経養血・活血行滞」の原則に基づいて行います。
【血寒】
■ 症状
月経が遅れ、経量が少なく、黒暗色で血塊が混じる。下腹部が冷えて痛み、温めると軽減する。畏寒して四肢が冷える。
■ 治法
温経散寒、養血調経
■ 処方
温経湯加減
(人参、当帰、川芎、芍薬、桂皮、我朮、牡丹皮、甘草、牛膝、呉茱萸、生姜、半夏など)
【虚寒】
■ 症状
月経が遅れ、月経量が少なく、淡紅色で質は清稀、血塊はない。下腹部隠痛、喜暖喜按、腰がだるく脱力感がある。
小便清長、大便稀溏。
■ 治法
温陽袪寒、養血調経
■ 処方
艾附暖宮丸加減
(艾葉、香附、当帰、続断、呉茱萸、川芎、芍薬、黄耆、地黄、桂皮、生姜、炮附子など)
【血虚】
■ 症状
月経が遅れ、月経量は少なく、色淡・血塊はない。下腹部の痛みが続く、眩暈がして視野がかすみ、心悸がして眠れない。顔面蒼白または萎黄。
■ 治法
補血調経
■ 処方
大補元煎加減
(人参、山薬、熟地黄、杜仲、当帰、山茱萸、枸杞子、炙甘草、竜眼肉、桑椹子など)
【気滞】
■ 症状
月経が遅れ、量は少なく、黒暗色または小さい血塊が混じる。下腹部の張り、胸腹部、両脇、乳房などが張痛する。
■ 治法
理気調経、活血止痛
■ 処方
烏薬湯加減
(烏薬、香附子、木香、当帰、甘草、芍薬、川芎、香附、枳殻など)