耳鳴・難聴
耳鳴・難聴とは
耳鳴・難聴は日常診療で頻繁に遭遇する耳疾患の二大症状です。
いずれも外耳から中耳、内耳、大脳の聴覚中枢迄のどこの障害でも生じます。
1.難聴:聞こえにくい、言葉が聞き取りにくい
難聴は外耳や中耳の障害による伝音難聴(音がうまく伝わらないための難聴)と内耳の感覚細胞から大脳まで音を感知する神経の障害による感音難聴(音をうまく感じられないための難聴)の2つに分類されます。
2.耳鳴
耳鳴とは、明らかな外界からの音がない状態で、自覚的にキーンやジーといった煩わしい音が聞こえる耳の症状です。
音がないのになぜ耳鳴が生じるのかは、正確なところは分かっていませんが、近年の脳機能検査画像の進歩などから、中枢神経に耳鳴が生じると考えられています。耳鳴はあくまで自覚的な症状なので他人からはわからないという問題があり、様々な検査法を組み合わせて耳鳴の評価が行われています。
耳鳴と難聴との関係をみると、難聴の約5%が耳鳴を訴え、逆に耳鳴がある方の約90%に何らかの難聴がみられます。
耳鳴・難聴における中医学の認識
本病は2020年前の「黄帝内経」に既に論述が見られます。
「霊枢”脈度篇”」には「腎気は耳に通じているので、腎の機能が調和していれば、耳は五音を聞き分けることができる」と記述があり、
「霊枢”海論篇”」には「髄の海が不足すると、目が回り、耳鳴がする」とあり、
「霊枢”決気篇”」には「精が大量に消耗すると、耳が聞こえなくなり…液が大量に消耗すると頻繁に耳鳴が起こる」「耳はたくさんの経脈が集まる所であるから、胃の中が空になると、それらの脈は虚す。経脈が虚すと陽気は上に昇らず、(耳部分の)気血が枯渇するため、耳鳴がする」とそれぞれ記されています。
「外台秘要”風聾方篇”」では、「病の源は足少陰腎経で、宗気が集まる場所であり、その気は耳に乗じる。その経脈が虚せば、風邪はそこに乗じる。風邪が耳の脈に入ると、経気が詰まって発散されなくなるために、耳が聞こえなくなる」と述べています。
「仁斎直指附遺方論”耳篇”」には「腎は耳に通じ、精を主る。精気が調和し、腎気が十分であれば耳はよく聞こえる。疲労によって気血を損なうと、風邪が虚した場所を襲い、腎精は損傷・消失し、腎は疲労し、耳も聞こえなくなる」と記載があります。
こうした論述はいずれも耳鳴・難聴・耳聾の原因が腎精虚損、胃気不足、肝火、痰濁上宗あるいは風邪が耳竅を襲うことにあるとの認識を示すものであると考えられます。
本文では、主として内傷により引き起こされた耳鳴・耳聾について解説していきます。
急激な振動、外傷、薬物、腫れ物などによって引き起こされた同種の症状についても、本文の弁証原則を参考にして対応することができます。
本病の病因には外因として身体の上部器官が風熱の邪気を受け、邪気が孔竅を覆うことにあります。内因には
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痰水・肝熱などが濁気を蒸しあげて上行させ、孔竅を犯すもの
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慢性病により肝腎両虚を招き、臓器の真気が不足するもの
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脾胃の気が弱まったことにより、清陽上行することができず、身体上部の清竅を潤すことができないもの
以上の要因があり、その要素は非常に複雑であります。
しかし、これらの原因について注意すべきことは以下の2点に絞られます。
1つは慢性の耳鳴・耳聾は病因の内外に関わらず、多く精気の不足と関係があるということ、
もう1つは、五臓のうち耳の疾患は脾・腎・肝・胆との関係が比較的密接ということです。
東洋一心堂漢方薬局での弁証論治
【肝胆火盛】
■ 症状
耳聾・耳鳴が突然起こる。頭痛、赤ら顔、口に苦味がある、咽が乾きやすい、イライラしがちで怒り易く、怒ると症状が悪化する。または夜寝つきが悪く、胸脇部が張って詰まったような不快な感じがする。大便は便秘気味、尿は少量で赤みを帯びる。
■ 治法
清肝泄火
■ 処方
竜胆瀉肝湯加減(瀉)
(竜胆草・三枙子・柴胡・黄耆・木通・車前子・沢瀉・地黄・当帰など)
【痰水郁結】
■ 症状
両耳に蝉の鳴くような響きがあり、悪化と軽快を繰り返し、時に耳聾のように耳が聞こえなくなることがある。胸部にもやもやと詰まったような不快感を伴い、痰が多く、口に苦味がある。又は胸部に痛みがあり、溜息をよくつき、耳下に腫れた痛みがあり、大小便の通じが悪い。
■ 治法
化痰清火、和胃降濁
■ 処方
温胆湯加減
(陳皮・半夏・茯苓・竹茹・枳殻・胆南星・海浮石・浙貝母・天花粉など)
【風熱上擾】
■ 症状
外感熱病の発展過程において、現れる耳鳴または耳聾。同時に頭痛、眩暈、吐き気、胸部の不快感、耳内のむず痒さなどを伴うことがある。ほかにも、悪寒発熱や身体痛などの表証を伴うことがある。
■ 治法
疏風清熱
■ 処方
銀翹散加減
(金銀花・連翹・薄荷・荊芥・豆豉・葦苳・桔梗など)
【腎精虧虚】
■ 症状
耳鳴・耳聾症状がある。ほとんどの場合、さらに眩暈、足腰がだるくて力が入らない、両頬の赤み、口の渇き、手掌と足底の熱感および心煩、遺精などの症状がみられる。
■ 治法
滋腎降水、収摂精気
■ 処方
耳聾左慈丸加減
補益腎陰:六味地黄丸
(磁石・五味子・亀板・阿膠・竜骨・牡蠣・女貞子・桑椹子・牛膝・杜仲など)
【清気不昇】
■ 症状
耳鳴・耳聾が軽快と悪化を繰り返す。休息すると症状が軽減し、疲労によって悪化する。四肢にだるさを伴う。
疲憊し生気がない。恍惚状態で食事も進まない。
■ 治法
益気昇清
■ 処方
益気聡明湯加減
(人参・黄耆・昇麻・葛根・蔓荊子・黄柏・芍薬・葛蒲・茯神・葱葉など)